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総量規制策の導入が図られてから数えても10年以上が経過していることを考えれば、その効果が全くといってよいほどや上がっていない理由について改めて再検討してみることが必要な段階にきているといわねばならないであろう。 さて前項では、これまでの東京湾の水質汚濁対策の推移とその実情についてごく簡単な紹介を行ったが東京湾の水質改善のために取られてきた従来の環境政策の展開がなぜ十分な成果を上げることに失敗してきたのか、以下では、その原因ないし背景について、もう少し掘り下げて考えてみることにしよう。
まず、上記の理由として、とりあえず具体的に指摘しうることとしては、次のような3点を挙げることができる。 第1は、前項で紹介したような総量規制策の実績値や計画値の基礎となっている発生汚濁負荷量の算定数値自体が実態からかけ離れており、そのデータとしての信頼性に疑問が多いことである。
この点でいえば、前述の実績値に示されているほど、実際には東京湾に対する汚濁負荷量の総量削減は進んではいないという可能性も否定しきれない。 少なくとも東京湾の水質改善に関する現行の環境保全計画自体があまり実態に即さない形式的なものになっているという可能性がある。
したがって、まずこの点では、現行の環境保全計画の具体的な政策プログラムの実効性に関する総点検作業とその見直しが求められているといえよう。 第2は、仮に第1次規制および第2次規制によって実際に汚濁負荷量の総量削減がある程度は達成されてきたのだとしても0979年の477トンおよび1989年の355トンという数値がそれなりに信頼できるデータだと仮定すれば、10年間で計122トンの削減量となり、1979年を基準にすれば25。
6%の削減率が達成されたことになるのだが)、その程度の削減量では具体的な効果が水質改善という形となって現われるにはなお決定的に不十分だという場合である。 この場合には、東京湾に対する汚濁負荷量のより抜本的な総量削減への政策プログラムが新たに検討される必要があろう。
さらに第3として考えられるのは、同じくCODに関する汚濁負荷の流入(第1次汚濁)が仮にある程度削減されてきたとしても、東京湾のような半閉鎖系水域ではすでに湾内に大量に存在する窒素、リンに起因する植物プランクトンの異常増殖によって、有機物の内部生産(2次汚濁)が発生し、それが無視できない問題になっていることである。 さらにこれに加えて、過去の汚染ストックとしての海底堆積物(ヘドロ)からの溶出や、埋立行為の継続による干潟や浅海部の消滅によって湾内での水質自浄能力自体の減退化が進行していることも無視できない理由の1つとなっていることが考えられよう。

ところで、以上に指摘したようないくつかの理由は、いずれも従来の政策プログラムの具体化のレベルにおける実効性と係わる問題点である。 したがって、もし仮に、現状における東京湾の水質汚濁の直接的な原因やメカニズムの実態により即した形で、現行の総量規制策を中心とする政策プログラムの改善を図り、その実効性を高めることができれば、それなりの成果が出てくることも期待しうる。
たとえば、東京湾への流入汚濁負荷量の算定をより実態に即した正確なものに改善し、それにもとづく総量削減計画を、イ)下水道普及率のさらなる向上と下水処理場からの処理排水の水質改善、ロ)下水道を経由しない直接流入分に関する排水規制の強化とその厳格な実施などによって着実に積み上げ、さらには2次汚濁の原因となっている窒素、リンの除去対策の強化、埋立行為の凍結などを進めていけば、ある程度の水質改善の効果もみえてくるかもしれない。 これらは、いわば従来の政策プログラムの枠内ないし延長線上における具体的な諸課題であるといってよい。
しかしながら、従来からの政策プログラムについて、以上で指摘したような諸点の具体的な改善が仮に図られたとしても、残念ながらそれだけで東京湾の水質に関する環境保全の課題が抜本的に達成されるとは思えない。 むしろ、到底不可能だといわざるを得ないもう1つの厳しい現実がある。
そこでは、現状の東京湾を取り巻く社会経済構造による制約という問題が無視できない。 現在の東京湾は、海域面積約12万ヘクタール、平均水深約15メートル、水容積約180億立方メートル、海岸線延長約170キロを有する内湾であるが、この内湾は、戦後日本における3大都市圏のうち最大の都市人口(約3200万人強)を擁する首都圏をその後背地として抱えている。
そして、この首都圏における社会経済活動とその構造が東京湾に対するさまざまな環境負荷のあり方を基本的に規定している。 それゆえ、東京湾の環境保全をめぐる課題は、究極的には、この首都圏をめぐる社会経済構造をどうするのかという点を抜きにしては語れない問題となっているのである。
そこでは、いわば構造的な視点からの政策プログラムの検討が必要となってこざるを得ない。 ここでは、東京湾の水質汚濁対策を事例として取り上げているので、以下では、それと係わる論点に限定して、以上のような現実についてもう少し考えてみよう。
すでに述べたように、現在の東京湾に対して、その後背地としての首都圏の社会経済活動が一体どのくらいの汚濁負荷を与えているのかを正確に定量把握することは必ずしも容易なことではない。 こでは、東Kの環境保全局が環境管理計画の一環として東京湾水質浄化対策のための基礎資料を得ることを目的にして独自に算定した推計値を利用すると、CODに関する1984年夏季ベースでの東京湾への流入汚濁負荷量の総計は約訳は表10・2の通りである。

推計値でみると、1980年代央でのCODに関する東京湾への流入汚濁負荷の約8割が東K内経由のこのN・2図にしたものであることがわかる。 したがってこの部分の汚濁負荷を大幅に削減することができなければ、東京湾の抜本的な水質改善はあまり期待できないといってよい。
ではこの東K内経由の流入汚濁負荷の大幅な削減は一体どのようにして可能なのであろうか。 図10・2は、この東K内に限って、そこでの都市活動ないし都市構造と水の利・排水の流れとの大まかな関連を描いてみたものであるが7)、この関連を念頭に置くと、次のようにいわざるを得ないであろう。
すなわち第1には、東京湾の水質改善という環境保全の課題は、その上流域および中・下流域全体を通じての水の利・排水の流れを総合的に管理する視点をもつことなしには到底実現しえないということである。 そして第2には、その場合、上流域および中・下流域全体を通じての水の利・排水の流れは上流域および、中・下流域での都市活動や都市構造のあり方によって規定されているため、東京湾の抜本的な水質改善のためには、その上流域および、中・下流域での都市活動や都市構造のあり方についても再検討することが不可避だということである。
したがって第3には、東京湾の水質改善という環境保全の課題は東京の都市活動や都市構造のあり方、さらには、それを背後から規定している首都圏の社会経済構造そのものの改革へとつながっていかざるを得ないということである。 前節では、東京湾の水質汚濁対策をめぐる問題を具体的事例として取り上げながら、環境問題・環境政策と社会経済構造との係わりについて考えてみた。
そこで明らかにしたような両者の係わりの問題は、実は、今日の環境政策の基本的なあり方に対して大きな課題を投げかけているといえるだろう。

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